人前に出て歌や演奏することは、緊張します。
自分では意識しなくても、人前に出て奏るのが怖いという心理が、体に生理的な反応を起こします。
あがりを起こす体のメカニズムと、克服法を紹介します。
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あがりの生理ー交感神経系
交感神経
自分で動かせるような運動神経系と違って、体は無意識のうちに自律神経によってコントロールされています。
循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、代謝のような機能をコントロールしています。
自律神経は、交感神経系と副交感神経系の二種類があり、
・交感神経「闘争と逃走」の神経と言われ、興奮して大きな力が出せます。
・副交感神経 食後や寝る時は副交感神経が優位。「消化と休息」。
体の色んな器官は、交感神経系と副交感神経系の二重の支配でコントロールされています。
あがりでの体の変化
多くの人が経験あるように、あがると心臓がドキドキ、呼吸が大きくなって、体を動かす筋肉はかたくなります。
汗をかいたり唾液が減ったり、消化器の働きが弱くなります。
人前で緊張したり、あがったりすることは正常な反応です。
不安を感じる、ストレスがかかる状況になると、体が自然に反応して逃げるか戦うかの準備状態になり興奮します。
交感神経系が優位になります。
交感神経系が優位になると、アドレナリンという神経伝達物質が分泌されて、下のような症状が出ます。
・鼓動が激しくなる→血流が増える
・呼吸が速くなる
・筋肉に血液が多く流れてかたくなる
・体、手が汗ばむ
・震え
・胃が締め付けられる
・口が渇く
・頭が圧迫されるような痛み
・ネガティブな思考
・満足に動けない
パートによって症状が特異的で、楽器に触れるところに症状が出やすいです。
鍵盤の人は手がかたくなったりしやすく、吹奏の人は口が乾いたり指が動きにくくなったりします。
アセチルコリンとノルアドレナリン、ドーパミンなど、自律神経系の機能を担う主な神経伝達物質は、
分泌されたり受容器で受け取られて、交感神経線維を伝って信号を伝え、色んなところに変化が起こります。
交感神経系の亢進により血管が収縮し、心拍数が増加し血圧が上昇、骨格筋への血液供給量が増加。
気管径の増加をもたらして、一回換気量の増加を向上させます。
あがりを起こす心理
交感神経系が亢進する理由は、心理的な要因があります。
人前に出てパフォーマンスする、「上手くやらなくては(ミスしてはいけない)」という潜在的な心理があります。
人に評価される、ミスしたら恥、上手く歌や演奏できないとダメという意識が潜在的にあります。
評価の高い演奏でないといけない、ミスや失敗をして自分の評価を損なう怖さでハードルをあげてしまいます。
あがり克服のためのメンタル
多くの観客を見たら怖くなったり、間違えたらどうしようと不安になります。
あがりによる”余計な考え”や体、手のかたさなどによって、実力通りのパフォーマンスができなくなります。
メンタル面と身体、両面から対策を考えてみましょう。
思考に邪魔させない
レッスンで身に付けた動きのコントロールは、考えなくても自動で動きを操ります。
自分が技術的にできることなら、できるのです。
動きを意識したり余計な思考が邪魔をすると、自動でできる動きを邪魔します。
不安や「失敗するかも」という疑いをもつのは、緊張しているせいということを理解しましょう。
余計な思考に邪魔させず、叩き込んだプログラムで動いていきます。
人前で緊張したり、あがったりすることは正常な反応です。
不安な気持ちが起こるのは自然なことなので、そういう気持ちにどう関わるかです。
あがることを許す
「あがってはいけない」と考えがちです。
不安な気持ちや体に症状がある以上、それを否定することは、余計思考や生理現象を混乱させ症状を強くします。
あがりは悪いことでなく、緊張感があって心身が活発になるから普段よりもいいパフォーマンスができます。
あがっちゃいけないことはない。
あがることを許しましょう。
本番前、身体的な興奮や不安を感じたら、それを認めて、緊張している自分を受け入れます。
あがってよし!
あがっている自分を認め受け入れる方が、心身共落ち着きます。
目的は何でしたか?
ステージなど緊張してしまう場面で、“ミスしないこと”に意識を向けがちです。
歌や演奏を披露する本来の目的を、思い出してください。
作品の魅力を伝えたい、セッションを他のプレーヤーや観客と楽しみたい、自分の音楽を人とわかち合いたい、何かに対する情熱を伝えたい、与えられたチャンスとか。
歌や演奏をして観客に伝えたいこと、わかち合いたいこと、あなたの目的に意識を向けます。
あと、観客はあなたを批評するためではなく、生の音楽を楽しみたくて来ています。
リラックスのための身体的対策
体をほぐす動き
筋肉がかたくなっているので、簡単なエクササイズでほぐします。
やり慣れているウォーミングアップ的な運動がいいです。
簡単ワークやストレッチの紹介
「歌や管楽器のあがり対策【口や舌の動きにくさ解消、顎関節症にも】」
体を安定させる
あがっていると体がフラフラしますので、地に足をしっかり着け腰を据えます。
自分の体を山の如く想像してどっしりと、足底に自分の体の重みを感じます(グラウディング)。
体が安定すると気持ちは安心します。
笑う
顔の表情は気持ち、心理に大きく影響します。
顔の筋肉や眼を動かす筋肉を使って、リラックスできます。
口角だけでなく、目の周りが笑うこと。
目をパッチリ開いたり、誰かと微笑み合ったり、こっそりヘン顔しましょう。
ルーティンワーク
自分の体に目を向けて、感覚(運動感覚、皮膚感覚、聴覚など)を味わいながら、ていねいに動きます。
イチロー選手がバターボックスに入る前や、五郎丸選手がキックする前に、決まった動きをします。
ルーティンワークをやることで、精神統一できるような神経回路を作っているから、落ち着いて集中でき実力が出せます。
普段から、簡単な動作を落ち着いてやっていることで、ルーティンワークになります。
姿勢、構え、チューニング、超基礎的なレッスン、ウォーミングアップ、自分独自のルーティンワーク的な動作など。
タッチや音、動きや体に意識を向けて、ゆっくり丁寧に動きます。
動作を落ち着いてすることなら何でもいいです。
太極拳のような大きくゆったりとした動きは、体と思考を落ち着かせます。
日本人のコンマスで、本番前にお茶を立てる人もいます。
呼吸
口を閉じ、鼻でゆっくり呼吸します。
「大きく深呼吸しましょう」と言われますが、静かに鼻で吐くと、心拍が落ち着きます。
五感覚
感覚を利用してリラックスします。
自分が落ち着く香り、色、味、音の飲み物、羽織りもの、画像など準備しておきます。
瞑想
瞑想はここでは詳しく書きませんが、体に目を向け余計な雑念を追い払います。
体や呼吸に意識を集中して、リラックスしやすく不安を減らす訓練になります。
一朝一夕にはいきませんが、得られる効果は大きいです。
以上、リラックスして集中するためには、体に目を向けることです。
自分は何をしたら落ち着くか、自分に合うものを実践することで、集中&リラックスしやすくなります。
《ミュージシャンボディトレーナー進藤浩子》 バイオリン、ピアノ、トランペット、アコギ歴。 趣味は、大人から始めたクラッシックバレエ、英会話♪ 詳しくは ≫プロフィール |