音楽家のフォーカルジストニア Musicain’s dystonia

2022  3/22 春秋社より発売  春秋社のページ (目次あり)

ジストニアに関する深堀り、補足記事を アップしています >note

ジストニアとは

ジストニアとは、自分の意思とは関係なく、筋肉が収縮したり、硬くなったりする病気です。

何か動作をしようとした時に、筋肉が過剰に収縮したりするためにスムーズな動作ができないという症状が代表的です。

極端な姿勢異常となってしまう全身型、一つの部位のみに限局する局所型などいくつかタイプがあります。

 

脳神経外科疾患情報ページ「パーキンソン病・本態性振戦・ジストニア症」より

ジストニア症とは、自分の意思とは関係なく、筋肉が収縮したり、硬くなったりする病気です。

収縮する筋肉は患者さんごとに限られ、同じような動きや姿勢になります。

何か動作をしようとした時に筋肉が収縮しすぎたり、働くべきでない筋肉が過剰に収縮したりするためにスムーズな動作ができないという症状が代表的です。

演奏や書字など決まった動作時だけ症状が出て動作が妨げられるものを、「動作特異性ジストニア」「職業性ジストニア」と呼びます。

音楽家の場合、歌や演奏をする局所の動きが困難になり、フォーカルジストニアと呼ばれています。

各部位には痛みや腫れなど伴わず、演奏・発声以外の動作や機能は、多くの場合、正常です。

 

音楽家以外の職業性ジストニアとしては、書痙(しょけい)といって文字を書く職業の人が字を書きにくくなる、

イラストレーター、理・美容師、外科医、歯科医、大工など、手を使う職業の人に起こります。

以前はできていた動作・技術が困難になりますが、日常生活では問題なく手を使えます。

楽器や歌のフォーカルジストニアの症状

同じ楽器、同じ部位のフォーカルジストニアでも、症状は人によって微妙に違います。

多くの場合、楽器を持たずに演奏の動作を行うと、症状が発現することなく動かせます。

肝心なことは、音楽家の演奏部位に起こり、できるはずの動きができなくなっているということです。

運指

ピアノなど鍵盤、ギター、バイオリンなど弦楽器、管楽器などで、特定の指が他の指の動きにつられるように屈曲するケースが多い

特定の指がこわばって動かせない、力が入らない、感覚に違和感があるなど人によって症状は様々

管楽器奏者

口角の片方または両側・口周りがこわばる
口唇が震える
舌が動きにくい
運指が困難になる、など

ドラマー 

腕、または脚を思うように動かせない
かたさやこわばりで叩きづらくなる

歌手 

声が掠れて出にくい(痙攣性発声障害)痙攣性発声障害診断基準
声は出るが音程や声量のコントロールが難しい
決まった音程のところで声が出なくなる、など

感覚の異常

手など演奏する部分の感覚に違和感がある

「音楽家のジストニアの診断は難しい」絶対的な診断基準がない

手指のフォーカルジストニア

指が巻き込む、伸びてしまう理由

楽器で指を別々に動かすとき、動かそうとする指の筋肉だけを、選択的に収縮することができます。

弾く以外の指の筋肉の収縮は抑制されますが、ジストニアの場合、特定の指の筋肉が過度に収縮してしまいます。

 

罹患している指の関節が強く屈曲して、グルリと巻き込んでしまう。
あるいは、指がピンと伸びてしまいます。

ジストニアでなくても、ピアノで他の指が打鍵している時に、小指がぐるっと丸まったり中指が伸びたり、押弦で押していない指が、丸まったり伸びたりします。

指は解剖的に元々つられやすいところで、ある指が動く時に、他の指が同時に曲がったり伸びたりしやすいです。

 

指を曲げるとき、人差指から小指までの4本の指を曲げる筋は同じで、

指の第二関節(爪から2つめの関節)を曲げる筋「浅指屈筋」と、

指の第一関節(爪に近い関節)を曲げる筋「深指屈筋」は、4本に共通した筋です。

なので、グーのように4本の指が同時に曲がりやすい。

かつ、この二つの屈筋は共同で働くので、第一関節と第二関節は同時に曲がります✊

 

指を伸ばす筋「総指伸筋」も、人差指から小指の4指ともに付き、伸筋は共同で働くので、4本の第一関節と第二関節は、同時に伸びやすい✋

これら「浅指屈筋」「深指屈筋」「総指伸筋」は腕の中にある大きい筋で、力が入りやすい筋肉です。

 

指をそれぞれ独立して動かすのは、掌の中にある小さな「骨間筋」「虫様筋」により、指を分離して動かせます。

母指と小指は、それぞれ母指球、小指球の中にある筋肉でも、開く、閉じる、曲げることができます。

これら手の中にある小さい筋肉は、小さい力で動きます。

それゆえ、指を分離して動かすのは、とても小さな力でできます。

手の筋肉学

フォーカルジストニアでは、特定の指の「屈筋」が強く収縮することで、第一関節、第二関節ともに屈曲し、グルリ巻き込んでしまう

そして、「伸筋」が過剰に収縮して、関節が伸び、指がピンとなってしまいます。

指の脳マップが融合

人が学習中、同時に運動・感覚を繰り返すと、神経細胞は結合を強め、それらの事象が融合することがわかっています。

 >演奏の動きの神経学 神経ネットワークができる

神経学者マイケル・マーゼニックは、脳内の差異化がいかに失われるかを解明しました。

サルの2本の指を縫合してしまうと、これら2本の指に対応する脳マップには融合が認められます。 

二つの行為を頻繁に同時に実行すると、本来は差異化、区別されるべき二つの脳マップが融合します。

同時に活性化した脳の神経細胞は、決まったパターンを作るので、「同時に動作すること」を学んでしまいます。

 

演奏の場合、意図的に速い動きを反復する、あるいは、負担がかかる動きを繰り返しているうちに、2本の指が差異化できなくなってしまいます。

二つの指の脳マップが融合してしまい、1本の指だけ動かそうとしても、他の指も同時に動いてしまいます。

指を別々に動かそうとして両方の指が同時に動いてしまい、融合したマップをさらに強化する破目になります。

楽器の演奏で二本の指を長らく同時に動かしていると、これら二本の指に対応するマップが融合することがあり、そうなると一本の指だけを動かそうとしても他方の指も同時に動く。

言ってみれば、二つの指に対応するマップが「脱差異化」するのである。(脱差異化;区別がつかなくなる)

これら二本の指を無理に別々に動かそうとすると、両方の指が同時に動くことで、融合したマップがさらに強化される羽目になる。

一度「脳の罠」に捕らえられると、そこから強引に抜け出そうとすればするほど罠に深く嵌る。

局所性ジストニアと呼ばれる。

ノーマン・ドイジ(高橋洋訳)『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』

指のフォーカルジストニアでは、特定の指が、他の指の動きで曲がったり伸びたりするパターンを脳で作ってしまった、と言えます。

 

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 『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』  

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