あがり症とステージフライト、違いは?

本番前か、本番中か

人前に出る、歌や演奏しようとする前は、誰でも緊張します。

ステージに立って奏らなければならない状況になると、怖さや不安を感じ、心拍やパーツなど体に変化が出ます。

 

あがり症の人でもステージで演奏し始めると、ごく普通の人程度の不安しか感じなくなる、

やってみれば怖くなくなることが経験上わかってきます。

全くあがらなくなるわけではなく、回数を重ねるとあがってもある程度冷静さを保てて奏でやすくなります。

>あがり、メカニズムと克服

 

本番が始まっても怖さや不安が大きい、動きをコントロールしにくい場合をステージフライト、ステージ恐怖症と言っています。

ステージに出る前の不安よりも、本番中の方が恐怖を強く感じます。

ただ、あがりとステージフライトの間に明確に境界がありません。

様々な恐怖症、社会不安障害

社会不安障害とは、一般の方でも場面によって怖さ、緊張を感じ、手や体の震えや吃音など体に症状が出ます。

あがって人と話せない、乗り物に乗るのが怖いなど、「不安症」や「〇〇恐怖症」ともいいます。

 

赤面恐怖症、発汗恐怖症、対人恐怖症、書痙(人前で字を書こうとすると緊張して手が震える)などで、行為が難しくなります。

発症は10代半ばから20代前半で、エスカレートすると症状が出る状況を避けようとする回避行動になります。

 

原因がわかる例ですが、大人になっても歯医者さんを怖がる人がいます。

幼児期に歯医者さんで、とても怖い思いか痛い思いをした経験があります。

歯科医院に行く前から怖さ、予期不安があったり、診療台に上がる前から体がかたくなったり震えたりされます。

 

あがりが、演奏や歌以外のところからくる恐怖のこともありえます。

幼少期のトラウマチックな体験によって、成長しても同じ状況で心身に恐怖の反応を起こします。

本人にとって感情的身体的に極度の負担となったことは、自覚なくても怖さが体に症状を表します。

 

社会不安障害でも音楽家のあがりでも、アルコールを飲むと一時的に緊張が和らぎますが、量が増えてアルコール依存症になる危険があります。

なぜ、本番で怖くなるの?

凍りつきー心理的脅威

人前で歌ったり演奏する前、不安を感じる、ストレスがかかる状況になると、体が自然に反応して逃げるか戦うかの準備状態になり興奮します。

動物、人が非常時に闘うか逃げようとする「闘争、逃走」反応で、交感神経系が亢進します。

 

もし、動物が捕らわれて食べられそうな時はフリーズ、その場にかたまります。

命を脅かす恐怖の場合、闘う逃げるより、考えることなくフリーズします。

これは、肉食動物は死んでいる動物を食べたがらないので凍りつく、仮死状態になり、万が一食べられても苦しまなくてすむための反応です。

 

凍りつきは、迷走神経という神経のひとつの働きです。

迷走神経におけるポリヴェーガル理論(多重迷走神経論)は、1995年ステファン・ポージェス博士によって発表されました。

 

人の場合、その人が心理的な脅威を感じる場面で凍りつきます

ステージフライトは、ステージで奏ることを脅威とする、恐怖に対する神経の働きからきています。

交感神経系による興奮よりも、迷走神経による凍りつき、脳が感じる恐怖への反応です。

「あがりが克服できない【ステージフライト】ー凍りつき」

ステージフライトを繰り返す訳

ステージなどでミスしたなど強くネガティブな体験を、思い出させるようなシーン、

照明、音、動きや感情によって、不安感、恐怖を誘発します。

ステージフライトの本質は、引き起こした出来事にではなく、当人の中で起こる「出来事への反応」の方にあります。

 

ステージでの強い不安、体や手のかたまり、頭の混乱など演奏を邪魔するのは、無意識に蓄えられたネガティブな体験からくる症状です。

体の緊張や不安、ネガティブな思考があることはわかりますが、自分の症状と過去の体験との繋がりは無自覚です。

「なぜステージフライトは繰り返すのか?凍りつきの神経学」

 

あがりとステージフライトの境界

人、哺乳類であることは、危険な時、心拍を速めて気管支を拡張させ、消化を抑制して無駄なく酸素を抹消に送る、

つまり交感神経系の亢進が必要です。

いざという時のために、人にとって不可欠な部分です。

 

交感神経と迷走神経、互いに影響しあうので、交感神経、迷走神経からくる反応に境界がありません。

なので、「闘争逃走反応」と「凍りつき反応」、あがりとステージフライトの間に境界線を引けません。

本番での緊張に使われる薬

あがり、恐怖症に使われる向精神薬

「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」(DSM-5)によると,恐怖が公衆の面前で話したり動作したりすることに限定されている場合を「パフォーマンス限局型」としています。

 

・SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬

セロトニン量の低下を改善して脳内物質のバランスを整えていきます。

効果出現まで数週間~数カ月継続して服用する必要があります。

 

人前での発表などがうまくいくような成功体験を十分に重ね自信がついてくると,1年程度SSRIによる薬物療法を継続後,減量・中止が可能となることがみられます。

商品名)パキシル、ルボックス

セロトニン「世界一不安を感じやすい日本人〜日本人があがるワケ」

 

・ベンゾジアゼピン系抗不安薬

神経をリラックスさせるGABA受容体の働きを高める。

強い不安を速やかに軽減させる効果が高く、苦手な場面に行く前に服用すると、リラックスしてそれに臨むことが出来る。

認知機能低下をきたし,パフォーマンスが落ちる可能性が考えられます。

長期的な服用は、集中力の低下やふらつきなどの副作用。

商品名)デパス、メイラックス

 

・βブロッカー

交感神経の働きを遮断し、心臓の病気や高血圧の治療にも用いられます。

アドレナリン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の作用を抑え、動悸や震え、口渇など身体の反応が抑えられる

およそ一時間前に服用すること。

不安をやわらげる即効性はない。

商品名)インデラル

 

個人的な意見として、ステージに上がるために頓用(一時的に飲む)以外で薬を飲むことは、お勧めしません。

よくなるとは、根本的に解決して、薬に頼らなくてもステージに上がれることです。

ステージフライトの人に必要なこと

自分を安心する

心理的な反応であることを理解しましょう。

脳が怖いと感じていて、あなたを脅威から守るために、神経系が凍りつく反応、怖さから逃げるようしています。

自分が自分を安心することが必要です。

 

実力が出せなかったり、また症状が出てしまっても、自分を責めないでいます。

もっと頑張らなくてはいけない、と考えなくていい。

怖さ、心理負担を抱えている自分を思いやり、自分に対して優しくいましょう。

「ステージ恐怖症の対策ー自分が自分の一番の味方になる」

脳神経学的なアプローチ

意識的な方法では対処できず、脳神経学的なアプローチが必要になります。

脳へアプローチする方法

・左右両側の刺激

バイラテラルな音源、タッチ、動き

神経系エクササイズ

ソマティック・エクスペリエンス(SE)(専門家の施術による)

EDMR(専門家の施術の下、目を左右に動かすことによって左脳右脳へ働きかけ、トラウマを解放します。)

 

・瞑想、マインドフルネス

体を落ち着かせ、体の中の感覚をみつめたり、思考を見つめることで、脳を改善します。

上項の「自分の内から」はマインドフルネスの自己受容という考え方でもあります。

 

・ブレインスポッティング 

原因がわからない心理的な負担を、視野を使って脳をスキャンし解放します。 

ブレインスポッティングとは

米、デイビッド・グランド博士によって開発された、トラウマ改善の心理技術です。

視線、目の位置によって脳にある問題に強く集中することで、体への影響を取り除きます。

 

一般のトラウマ患者だけでなく、イップスやパフォーマーに用いられています。

効果が早く、かつ大きい、思い出そうとする必要がないのでつらくないことが特徴です。

 

ブレインスポッティング参照ページ

・(英語)デイビッド・グランド WHAT IS BRAINSPOTTING?

・日本語での説明 動画「ブレインスポットとは?」

 

隠れた脳の痛みを取り除かないかぎり、パーツのジストニアの根治はありません。

脳、人は過去の傷みから立ち直ることが可能です。

私の場合

映画でDVシーンを観た後、PTSDを発症しました。

その時は映画のシーンがフラッシュバックして体がかたまるので、自分にトラウマがあるなど思ってもいませんでした。

ブレインスポッティングを自分にやったら、高1の時ショックを受けた出来事を思い出しました。

 

閉じ込めたトラウマは、取り出して解放するので思い出しても辛くありません。

そこから楽になったし、むしろ力強くなりました。

脳の治癒力

自律神経系は私たちの呼吸、循環、消化など重要な部分をコントロールし、免疫系にも関与して恒常性を保ってくれています。

つまり、病気を予防したり、病気や不調からよくなろうとする自然治癒力の源です。

 

凍りつきですら、本来は自分を守るための大切な機能です。

脳、神経系は自分を守っています。

 

五感覚(視覚、聴覚、圧感覚など)内臓感覚、動きの体性感覚などは、直接、脳(の橋)でつながり、それらから制御されて、脳と自律神経の大きな神経系ネットワークとしてして働いています。

感覚や動きがあなどれないということです。

 

神経可塑性と言い、脳が先天的や後天的な障害を聴覚運動を通して改善したり、レイプ被害者がベリーダンスでPTSDを改善するなど、脳の回復力は偉大です。

 

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『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』

 

《ミュージシャンボディトレーナー新堂浩子》

ステージに上がる音楽家のためのフィジカルセラピスト

音楽家の不調を根本的に神経系から改善して、心技体トータルで向上していけるよう支援しています。

19年医療に従事したのち音楽家専門パーソナルトレーナーに。

バイオリン、ピアノ、トランペット、アコギ歴。

趣味は、大人から始めたクラッシックバレエ

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