演奏家に起こりがちな手腕の症状や疾患を、まとめてあります。
「手の外科」の標榜のある整形外科を受診することをお勧めします。
手以外は別ページ▶「音楽家に起こりがちな体の不調」
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音楽家の手指によく起こるもの
手の症状としては、痛み、しびれが多く、40代以降になると手に症状が出る人が多いです。
音楽家は手をよく動かすので、普通の人でも中年でなりやすい手の疾患が、出やすい。
突き指、切り傷、切り傷、転倒など、外傷も多く、手を守るよう心がけてください。
腱鞘炎
指を動かす筋肉の端、骨に付くところは、細くて収縮しない腱といいます。
指の関節で腱をはめている鞘(さや)があり、腱鞘(けんしょう)と呼びます。
腱と鞘がちょうどベルトとベルト通しの様になっていて、腕の中で筋肉が収縮すると、細い腱がベルト通しの腱鞘の中をスルスル動いて指を動かします。
腱や腱鞘が擦れて腫れたり痛みが出たり、スルスル動かなくなるのが腱鞘炎です。
重いものの運搬やサインなど書き続けるなど、手の力作業でもなります。
腱鞘炎1 手首の親指側が痛い
ドケルバン病。親指を広げたり動かしたりすると、手首の親指側に強い痛みがあります。
母指を広げると母指から手首にかけて、2本のスジが浮かび上がります。
親指を動かす筋肉(短母指伸筋腱と長母指外転筋)の腱です。
親指を動かす筋肉の腱、腱鞘が炎症を起こして、痛みや腫れがでます。
①短母指伸筋腱;母指を伸ばす筋肉の腱
②長母指外転筋腱;母指を広げる筋肉の腱
③ ①と②の腱が通るトンネル、腱鞘
親指の無理な動きによる負担が原因と考えられます。
テスト法;母指を中にげんこつにして手首を小指側に曲げると激しく痛む。痛みがある人は要注意。
腱鞘炎2 バネ指
掌側の指の付け根で、指を曲げる筋肉の腱が腫れて腱鞘を通過する動きがスムーズでなくなり、痛みや腫れが生じます。
朝方症状が強い。親指中指に多く、他の指にもよくみられます。
進行すると引っかかりが生じて、曲げ伸ばししづらくなり「バネ指」といいます。
参照、図引用≫日本整形外科学会「ばね指」
指の負荷のため、動かすたびに摩擦のために炎症が進み、症状が悪化します。
女性の出産、更年期にも多い。
指に力を入れない、安静。鎮痛消炎剤。(腱鞘を切る手術もあります)
《親指が痛い、肘が疲れた時の対策》
《演奏で手が痛い、指が痺れている時の休め方》
母指CM関節症
親指の付け根の指関節に、腫れや強い痛み。
ビンの蓋を開けようとすると痛む。
腱鞘炎は腱、腱鞘の炎症ですが、こちらは関節、骨の出た部分の炎症。
三味線のバチの親指にみられます。
ネックやバチに親指を強く押さえつけない。
手根管症候群(親指〜薬指の感覚異常)
親指から薬指までの感覚異常。
手首の掌側で、指を曲げる筋肉の腱は、手首の骨を通ります(手根骨と屈筋支帯の間)。
↑正中神経と腱が屈筋支帯と手首の骨の間を通る
この腱が腫れると、正中神経に障害が起こり、親指から薬指まで知覚異常がでます。
正中神経は、親指から薬指の親指側までの掌側の感覚と、前腕の回内や手首の屈曲、手指の屈曲、母指の付け根の運動を支配します。
↓黄色が正中神経、紫色の範囲で感覚異常
手首の負担が大きかったり、腱鞘炎、打撲に併発することも。
妊娠・出産期や更年期の女性に突発的になることも多い。
指の力を入れず、前腕の筋肉を弛めた状態を保つ
(動画↑、休め方参照)
ガングリオン(結節腫)
手首甲側、手首の親指側の掌側、指の付け根の掌側できる皮膚の下のコブ。
関節で滑液が閉じ込められてできる。
無痛や自然に消えることもあり、痛みや運動障害には、注射吸引等。
へバーデン結節
人差し指から小指にかけて、指関節が赤く腫れたり曲がったり、痛みを伴うこともある。
第1関節(爪に近い関節)側に多く、複数の関節や指に発症。
一般に40歳代以降の女性に多く、手を良く使う人にはなりやすい。
原因は不明。ほとんどが保存的療法。
フォーカル・ジストニア
演奏の際、指が意思に反して巻き込んだり伸びたり、感覚違和や道具を動かせなくなるなど、演奏部位をコントロールできなくなる。
本『演奏不安・ジストニアよ、さようなら:音楽家のための神経学』
2022年3月発売 春秋社のページ
突き指
指を屈伸する方向に止めている関節の靭帯が、無理に引き伸ばされてしまい起こる。
指を引っ張らない!場合によっては悪化させる。
程度によるが、ある軽度の期間は安静固定。
靭帯の断裂、脱臼、骨折では、変形や内出血。
変形が残ったり指の動きが悪くなるので、直ぐに手の外科かスポーツ医を受診。
つる(演奏中に動かなくなる)
筋肉の攣縮。指、腕、足、喉どこでも起こりうる。
収縮・弛緩に使われるミネラルが不足してくるせいと考えられている。
演奏中、筋は収縮弛緩を繰り返します。
前日の飲酒でも起こりやすくなるとも。大豆製品や野菜をしっかり摂る。
手荒れ
指先の割れ、指関節のパックリ割れ、ひび・あかぎれ対策は
腕・肘に起こるもの
指を動かす筋が肘から付いているので、演奏後に前腕や肘が疲労したり痛んだりします。
多くは手の負担から招かれます。
肘や腕の痛み
演奏で、腕が疲れたり肘が痛む。ドラマーに多い。
手に負担がかかると、手首や親指の筋肉が付いている肘関節あたりに炎症を起こし、肘や親指の付け根(腱鞘炎)を痛めます。
椅子を持ち上げたり、手を伸ばして中指を押したりすると、肘から前腕にかけて痛みます。
「テニス肘」とも言い、ラケットを握る手に負荷がかかるせいで、腕や肘関節が痛みます。
指や手首の筋肉が付く肘に炎症
≫ Drums&Percussion ドラマーに多い痛み
音楽家の手腕のしびれ
・手根管症候群↑;人差指、中指、親指のしびれ、痛み
・胸郭出口症候群↓;長時間弾き続けて、頚肩腕にしびれ、痛みや違和感。
・頸椎椎間板ヘルニア;首からくるもの
胸郭出口症候群(腕のしびれ、痛み)
肩や腕の痛み、上肢のしびれ、痛みや違和感、感覚異常。
荷物やストラップを長時間かけたり、長時間、腕を前に出して手を使い続けるなどにより、しびれ。
肩から前脇までの範囲で、圧迫されると神経や血流を阻害、腕や手にしびれが出ます。
手腕の運動・感覚を支配している神経が、頸椎の下の方から鎖骨の周りの筋肉を通って、腕を通って指に行きます(腕神経叢)。
この神経障害や鎖骨下動脈の血流障害に基づく腕の痛みやしびれを、頚肩腕痛(けいけんわんつう)といいます。
ストラップが首に食い込んだりアコギを抱えている脇など、鎖骨の上から脇の前で、手に行く神経や血管を圧迫します。
なで肩、こり、上肢を挙げた位置での仕事や重量物を持ち上げる労作も原因になる。
締め付けの部位によって、斜角筋症候群や小胸筋症候群とも言われる。
休憩、ストレッチでこりを予防。
頚椎椎間板ヘルニア(手腕のしびれ、麻痺)
首や肩、腕に痛みやしびれが出たり、ボタンがかけづらいなど、手の運動障害が出ることも。
首を後方や斜め後方で症状が増強する。
30~50代に多く誘引なく発症することも、悪い姿勢や強打などが誘引になることもあります。
40才以上は、ヘドバンしずぎに注意。
足のもつれ、歩行障害が出ることもあります(脊髄の障害)。
鎮痛剤、神経ブロック、運動療法、手術。
頚椎性神経根症(手、腕、肩)
中年~高齢の人で肩~腕の痛み。
腕や手指のしびれが出ることも多く、痛みは軽いものから、耐えられないような痛みまで程度はそれぞれ。
一般に頚を後ろへ反らすと痛みが強くなり、上方を見ることやうがいをすることが不自由に。
上肢の筋力低下や感覚の障害が生じることも。
症状が出ないように頚椎を後方へそらせないようにする。自然治癒。
肘部管症候群
加齢に伴う肘の変形、靱帯などによる神経の圧迫など、肘の内側の神経が慢性的に障害されたことで起こる。
肘の内側を叩くと小指側にしびれ。
初期は小指と薬指にしびれ。進行するとかぎ爪指変形。
『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』